2023/12/04
さらとバクダッド・カフェ
さらの木にチェックインすると部屋にこもり切りになる。
特に用事がない限りは階下に出てウロついたりするってあまりないと思いますが。
宿内でときとき流れる気怠くて不思議な女性ボーカルの歌声を聴いたことがありますでしょうか。
まだ知り得て最初の頃、毎回来る度に流れる唄が印象に残ったので、Mさんに何のCDか教えて貰ったのがこれ。
このアルバムはアマゾンか楽天で購入して、さらに行くときはくるまの中で、部屋で流しています。
その中で、印象に残ったのが下記の2曲で、
I Just Called To Say I Love You
Cakking You
前者はいいや。後者の「Cakking You」についてですが、Mさんが言うには、
「あの歌は、私が〇〇年前から繰り返し観た映画、バクダッドカフェのテーマなんです。」
「ばくだっどかふぇ?」
エジプトのバクダッドのカフェかと思った。砂漠、民族紛争、支配者と被支配者、植民地、内戦、ゲリラ、そんなのを脳裏に描いて想像したけどさにあらず。
10月のいつだったか、NHLプレミアムシアターでバクダッドカフェが放送されたのよ。
ディレクターカット版だったかな。録画して観たのだ。
確かにCakking Youが流れた。最初と最後と途中と3回くらい流れたんじゃないかな。
「バクダッドカフェ観ましたよ。あの映画はぜんぜん伏線がないね。」
「ないですねぇ。でもあの映画は深いです。シュールな世界とアメリカの田舎の荒廃した雰囲気にワクワク感と懐かしくて大好きです。」(Mさん)
別に私はワクワクしなかったが眠くもならなかった。カフェの女主人のブレンダがやたらと怒鳴り散らしていたからである。
「でも今の現代感覚だとツッコミどころ満載ですよね」(Mさん)
そう、確かに満載である。チェックインしてMさんに言った。
「あれはカフェで怒鳴りまくっているブレンダではなく、デブのドイツ女が主人公なんですかね。」
「デブ女の亭主はあれきり出てこないし。刺青師のオンナは何で急に出てっちゃったんだろう」
「マジックなんかすぐに飽きられますよ」
「彼らは何を食べて生きてるのかな。あの一帯の年間降水量だけで生存できるのかな。インフラは完備されてるのだろうか」
あの映画はオカしいと言わんばかりにね。
ドイツから観光旅行にやってきた中年の夫妻が道中の砂漠地帯で夫婦喧嘩をやらかし、ひとり車を降りた妻のジャスミンがトランクひとつで宛てもなく歩き出す。
辿り着いたのは、モーテル、カフェ、GSを兼ねた「バグダッド・カフェ」、
ジャスミンが辿り着く前、彼女を置き去りにした亭主が先にカフェに来ている。亭主の方はくるまだから。
そういうひとりの一見客がカウンター席に座ると、オーダーするものは大概はビールかコーヒーと相場が決まっている。これが西部劇ならウイスキーのワンショットだろうな。
ところがカフェは酒類提供の免許を持っていない。(ビールくらいあっても良さそうなものだが。)
しかもコーヒーマシンが壊れていて町に修理に出しっ放しで、店を切り盛りする女主人ブレンダの亭主であるサルは取りにすら行かない。
後でブレンダに怒鳴られて追い出しを喰らうのだが。
「マイワイフを見なかっただろうか?太ったドイツ人だ」
自分が置き去りにしたクセによく言うよな。私も社内で「あの子、名前なんていったかな。その〇〇〇〇みたいなの」、よくないことだが〇〇〇〇は対象者の特徴か比喩なのだ。「太ったドイツ人」だって?そこだけ切り取ったら私はジャスミン亭主のことを悪くは言えない。
そのジャスミンの亭主に黄色い魔法瓶から注がれたコーヒーが出される。
「うまいコーヒーだ」、
「お代は要らない」、
「いいカフェだ」、
実はその魔法瓶が自分たちの所持品だったことに気づいていない。
黄色い魔法瓶、サルがどの場面で黄色い拾ったのかイマイチ覚えていない。覚えているのはブレンダに「戻してきな」怒鳴られた場面である。
ジャスミンは後から歩いてやってきてカフェと別棟にあるモーテルの部屋を借りる。
カフェ&モーテル&スタンドを経営する女主人のブレンダは、日々の家事と経営難で荒れ気味でいつも周囲に何かしら怒鳴り散らしている。
何人か男手もいるのだが殆どがちゃんと働いていない。
ハンモックで寝てばかりいるバーテンダー、(客が来れば対応はするけど。)
自分の赤子の面倒も見ないで下手なピアノばかり弾いているブレンダの息子、サルJr、
そしてグータラ亭主のサル、
アバズレになりかけてる娘のフィリス、
それらに始終苛立っているブレンダは、自分の留守中にジャスミンがモーテルの大掃除をしてしまった事にブチ切れるが。。。
他、女刺青師のデビー、「仲が良過ぎるわよ」そう言い置いていきなりいなくなる。
ハリウッドからの流れ者でカフェの敷地内の?トラーラーハウスに住み着いている画家のルーディ、
こヤツはジャスミンをあろうことか絵のモデルにと口説き始め、ついには見たくもないのに脱がせやがった。そしてラストでは。。。
もうひとりいる。ブーメランを飛ばしてばかりいるヒッチハイカーのエリック、
「あんなにブーメランを飛ばしまくってアブなくないのかな」
「アメリカだからできるんですよ。この辺でやったらタイヘン。向こうに行くと、ブーメランまでいかなくても、外で同じことばかりやってる人っているんです」(Mさん)
女主人ブレンダはジャスミンをアヤしいオンナ扱いして保安官を呼んで職質までさせるのだが、先にサルJrとフィリスがジャスミンに近づいちゃう。
でも、サルJrは最初は「あのデブ女」、
フィリスもジャスミンに「あかんべぇ」舌を出してブレンダに叱られるのだが。そういえばこんな事を言ってたな。
「なんでそいつもと違う丁寧な言葉で話すの?」(フィリス)
「あの人はお客さんだからよ」
ブレンダの息子、サルJrがカフェのピアノで弾いている曲にバッハの「 平均律クラヴィーア曲集第1巻、第1曲」・・・
「私だって弾いたさ」
「そうなの?」
弾かないピアニストなんていないと思うぞ。
この曲はメリル・ストリープが英国首相のマーガレット・サッチャーを演じた2011年映画「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」のエンディングでも流れたね。聴いたことのない人っていないんじゃないかな。
そこにいるだけ、デンと鎮座ましましてるだけだったジャスミンはだんだんそうではなくなっていく。
カフェの客相手に手品を披露し始めて盛況になった辺りからブレンダの表情も和らいでゆく。
それまで終始気怠かったのが後半のマジックショーで何だか嘘くさくなる。
「そんなに短期間であれだけのマジックができるものなのかしらねぇ」(ジャン妻)
ラストはカフェの家族になりそうな雰囲気でいきなり終わる。
ひとりだったジャスミンはひとりじゃなくなったと思う。でももと亭主の行方は知れないまま終わる。
「ジャスミンの亭主はあれきり出てこないしさ。後で出て来るのかと思ったんだが」
「そこは、その、突っ込んじゃダメですぅ」
「???」
Mさんの連れない返事に私は朝、まぜっかえすことになるのだ。
もう1回、観る気はないなぁ。
右も左もわからない異国で同伴者と喧嘩別れするって辛かろうに。
携帯電話もない時代なので連絡の取りようがないからって思ったんだけど、オカしいよな。自分が置き去りにしたクセにさ。
カフェの前の道は一本道なんだから引き返して迎えに戻ればいいだけのことではないか。コーヒーマシーンが壊れてるカフェにいる意味ないよ。
ジャスミンもジャスミンで「ウチの亭主とおぼしき男が来なかった?」ぐらい聞いてもよかろうが。
再会したとき、離婚の手続きは済ませたのかな。
とまぁ突っ込みドコロが満載なのだよ。「そこは突っ込んじゃダメですぅ」Mさんはそう言うけど、Mさん自身も突っ込まないで欲しい雰囲気を纏っているときが多々あるからね。「何で生姜を摺らないでSBチューブの既製品で出すんだよ」とかね。
映画の中でマトモなのは、ちゃんと働いているのは、ジャスミンの旅行ビザの期限切れで移民局に連絡すると通告したロン毛を編んだ先住民の保安官だけである。
その一風変わった映画の主題歌がよく「さらの木」で流れている。
デッキのソファーに座って庭を見てるのだが、いよいよ引退したらこうなるかもしれないなと思う。
こうしてると向こうからジャスミンが現れそうである。
そういえばさらも宿になる前はカフェだった。
さて、宴の時間になった。
あろうことかジャン妻はノーメイクなんですよ。
「何で化粧しないのさ」
「だってさらだモン。要らないわよ」
ったくトシとるとこれだからな。