段差があって入れ難い駐車場にクルマをバックから入れたら、もうひと組のお客が徒歩で宿入りしたとこだった。
さらにはMさん以外にフロントマンがいないので、1度に2組だとMさんがアワアワするだろうから、敷地内にそっとゆっくり入って、勝手知ったる知人の家の如くドアを開けて上がって、食堂テーブルの一画で待機してた。これがF山温泉なら他スタッフがインカムで「お見えになりました」とやるところだが。
なかなか下りてこない。とうとう椅子に座って待つハメになったらMさんが下りて来た。
私の胸ポケから焦れたプチ公(ドライヴの御守り)が飛び出してきてナマを言い放った。
「よう、遅ぇぞ」
「・・・いらっしゃいませ・・・半年ぶりですかね?」
「そんなことないでしょ。1月に来ていますよ」(ジャン妻)
部屋入りしたら暑いのだ。今の時期からムシが動き出すので、ハチやらアブやらが入って来るのをガードする為にベランダの半露店の引き戸が閉まっていたからです。
これが給湯の熱を外に逃がさず中に封じ込めてしまい、開放したら外の方が涼しい始末。この時期は温度調整が難しいですね。エアコンでクールにするには早過ぎるし、それでいて布団もまだ冬布団なんですよ。
「この布団だと今夜は暑いかもね」(ジャン妻)
ジャン妻は扇風機を持ち出して廻したが、部屋の広さにしては少々弱くもある。こりゃ今宵は寝苦しい夜を過ごすことになりそうだと懸念したが。。。
ひと風呂浴びて、私は下に下りて厨房をノックした。
私はMさんに。11年に渡って継続していた旧ブログ閉鎖と新ブログ移行の経緯をお話しています。もしお客さんから聞かれたら今言ったままを話しちゃって構いませんよと。
実際、聞いてきたお客がいたらしいのだ。
事情を知りたいって?
明かせません。船山温泉でも書いたけど、カテゴリに人間ドラマが無いことで察してください。コメントで聞かれてもお答えできません。
おっ、今日は刺身が5種盛りか。いつもは4種なのに。
でもアジ以外のネタは2枚か。ひとり1枚ずつかい。
ネタはいいですよ。スーパーの魚屋で売ってる刺身の上モノって感じですね。
Mさん自身も釣りをするそうだが、前に聞いたのは、宿を開いた頃に漁港に行っても「こんな遅い時間に来たって魚なんかねぇよ」突き放されたそうである。今は信頼できる魚屋さんから仕入れてますって言ってた。
ここんとこ美味しい刺身を食べてなかったので、来る途中のくるまの中で、
「さらって刺身が一番美味いよな」
このヤボな発言にジャン妻はカオをしかめた。言うなら「さらって刺身も美味しいね」ぐらいにしなさいと。
でも刺身はこの後すぐに出されるガラスの皿に載った前菜、さらを有名にしたのは某satomiさんのBlogと、次にドーンと出される前菜盛り合わせプレートだと思っていますが、それが出ると刺身こそ前菜の前菜で、露払いでしかなくなるのだ。
絶対出してねと念押ししてあるサーモンのタタキ、タルタル、
真ん中に鎮座しているのが熱川ポークの何とか、他、彩野菜のマリネやら蕗味噌を塗した細っこいアスパラ、カツオのたたきとか。
マリネに椎茸が入ってる。ジャン妻にくれてやろうとしたら睨まれた。黄色い木の皮みたいなのは何だったかな。
お次に出されたのがこれ、
「ダイオウイカ?・・・」
「そ、そうです・・・」
ダイオウイカのわけない。まるでどこかの祭り、縁日、屋台みたいだね。
肝付きで美味しい。これは日本酒かなぁ。私はイカ焼きは好きだが、ひとりでまるまる1尾はキツいし、ジャン妻は少々持て余したらしい。多いって。
「次回は言っといてよ。銀紙で包んだ蒸し焼きとか、白身魚のソテーとか」(ジャン妻)
ああ、スズキのポワレね。皮もパリパリに焼いたあれね。
私もそっちの方がいいかな。
ダイオウイカの迫力に負けてお次の何とか貝のパン粉焼きが霞んでしまった。こっちはひと口で終わった。
お決まりのパターンで、床のタイルを引き剥がした1枚板の上に載った和の肴が・・・
減ったなぁ!
これは2皿だけど3品なのかな。煮物、その辺の草をむしったんじゃないけど天ぷら、肉々しい桜シウマイか。
寂しくなったなぁ。コロナやウ情勢の前はもうひと押しあったのだが。
芝大門の居酒屋でお湯を沸かしてなかったせいで、〆のへぎそばが時間がかかって「お待ちになってる間、これを摘まんでてください」って山菜の天ぷらが1串、出されたのよ。それを思い出しちゃった。
15秒で食べ終える量ですがそれじゃあんまりなので日本酒「正雪」でチビチビと摘まんだ。
今日は最初からブツクサ言ってますが、どれもこれも当然の如く味はいいのよ。美味美味!ただ、さらの料理って味も見栄えもこれ以上誉めようがないからね。キレイで美味くて当然なのです。こういうのを舌が驕るというんだろうけど。比べちゃいけないが、日頃利用している居酒屋料理が〇〇に見えて来るからね。
それとどうしてもコロナやウ情勢の前と比べてしまうのだ。諸物価高騰で厳しいのは理解しようとしてますが、前を知る者としてはね。
そしてメインの肉料理ですが、部屋入りしたときにオカしな造語で聞かれたのよ。
「お肉はロービーでよろしいでしょうか?」
「・・・」
しばし間があって、
「ロービーとは何です?」
私はわかって言ってますよ。
「ロースト・・・ビーフです・・・」
「それでいいですよ」
ロストポークならローポー、ローストチキンならローチキとでも呼ぶのだろうか。このロービーに伊豆牛ステーキを1人前だけ追加したのですが、
ステーキ1人前が大きいサイズで付け合わせの野菜もたくさん・・・
・・・なんだけど、タケノコ、エリンギ、焼き蕪かぁ。どうしてこういう意表を衝くグリル野菜にするかな。ポテトでいいのにな。
「う~ん、アタシ、ステーキも苦しくなってきた」
「いいよ私が喰うから」
私は未だ何とかイケそうですが。次回からステーキ外してロービーだけにするかな。
さらには厨房にもうひとりサポートさんがいるらしいね。声と気配がするもの。殆ど表には出て来ないのです。Mさんの影の存在だろうか。
旦那さんかも知れない。でも旦那さんが出てきたときのMさんは口が悪くなる。「ムサ苦しいのが現れてすみません」とか平気で言うんですよ。
自分が言われてるようで哀しくなったりする。
「アタシは言ってないわよ」(ジャン妻)
部屋で二次会ですがその前に、やっぱりこの布団じゃ暑いので、薄手のを出して貰い、ジャン妻がバサバサと替えているところ。
軽く二次会、今まで待たされてたプチ公の鼻息が荒くなる。
酒が空いて外に出てみる。イルミネーチャンが変わったな。もう1本の木にもぐるぐる巻かれて光ってる。デッキの脇に設置されたゲートみないなのにも。
ホゥ、ホゥホゥ、
前の森から聞こえた。
前の森からだった。学問の神様か。
ベランダから出てみた。
この街灯の下に誰か立ってたら不気味ですね。こっちをじーっと見てたりして。
引き戸は閉めました。
「外からムシが入ってきそうだから閉めましょう」って言うから。
「ムシムシするな」
「・・・」
閉めると湯の温度がこもって部屋ん中の温度も温かくなる。冬ならそれでもいいんだけど。
プチ公は私の枕元の上にいるこの子と逢引き中です。子供は寝なさい。
朝は朝でまた言ってしまいますが、サラダ、カサが低くなったな。
願わくばこのスープが出されたタイミングでパンが欲しいものですな。
チーズを殆どもってったわねっ!(ジャン妻)
真っ白なワンプレート皿に映える朝のメインディッシュ、焼き鳥、焼き野菜、シャウエッセンじゃなかった御殿場ソーセージ、軟弱なオムレツはキッシュっていうのですか?そしてリゾットじゃなくて・・・
ひもかわうどん!
8:35です。珈琲の出が遅い。船山や蕎麦宿だったらとっくに喰い終えて部屋でゴロ寝してます。
いつもの拷問デザート、例によって酸っぱい果物ばかりである。
「あげますよ」
「・・・」(Mさん)
またそういう哀しそうなカオをする。演技でしょうどーせ。苦手だから要らない、もうひと組のお客様にあげちゃおうかなと思ったら、そちらの旦那さんはデザート食べないで、奥様を残してお部屋にお戻りになったじゃないか。
「奥様はお友達と前からいらしてるのですが、旦那様は初めてでしたね。デザートを奥様にあげてました」
「ホレ見ろ」
「・・・」
「デザートが苦手で食べない客もいるじゃないか。私だけじゃないって」
「男性の方は苦手な方もいらっしゃいますね・・・」
まさに私のことですよ。
「だったら・・・」
「いいから黙って食べなさいっ!」(ジャン妻)
喰い終えて階段を上がる途中でMさんから聞いたんだけど、昨夜、近所に猪の親子が出たんだと。
「母猪と子供の、ウリ坊と。ご主人が外を散歩されてるときに襲われないかと心配して」
「猪ならここにもいる」ジャン妻を指そうとしてさすがに止めたよ。
伊豆には熊はいないらしいが猪や鹿はいる。前にMさんがいた赤沢の山ではしょっちゅう出たらしい。昨夜の猪母子はどっかの家の庭から出てきて道路を横切って、前の森にガサガサと駆けこんでったそうです。
「猪は船山でよく食べてるけど、あの宿は猪どころか熊が出たんだぞ」
「船山温泉様で熊が出たんですか?」
「宿の敷地内じゃなくて河川敷に出たのよ。館主夫妻がネコを探しに世歩きして、ネコの名前をミケとかタマとか呼んだら黒い影がヌオッと浮かび上がって目がキラッと光ったんだって。アッハッハ(笑)」
「またそうやって話を造る」(ジャン妻)
「ホントだって。山梨県の熊目撃情報にも載ったんだから」
伊豆でも猪肉や鹿肉を扱う宿や店はあるし、Mさん自身も焼いた鹿肉とか、煮込んだカレーは食べてるらしい。でもさらで猪肉や鹿肉を扱うとは思えないな。
会計して次回を押さえるのですが、実家の建て替えを抱えてるので、工事に入っちゃうのはいつだっけか。そういう会話になって。
「その頃には建て替え工事も始まってるから業者に任せちゃっていいし」(ジャン妻)
「建て替えされるんですか?」(Mさん)
「そう、5月は毎週打ち合わせなの。この人(私のこと)は行かないけどね」
行かないけど、どころか、行こうともしないけどね。
「ちなみに、どこのメーカーさんなんですか?」(Mさん)
「スウェーデンハウス・・・」
「え?スウェーデン行かれるんですか?」
出たよ。
何でそうなるかな。
この人ならそう言うかなと思ったのもあるけどな。
「行かないよ」
このボケは毎度のことだが北欧に行くんじゃないって。お客さん満足度総合1位9年連続と謳ってるプライドの高い生意気なメーカーさんですよ。
そしたらさらのご近所に、そのメーカーさんで建てた家があるというんだな。もとはさらのお客さんで、八幡野が気に入って移り住んじゃったんですって。
そりゃ伊豆八幡野でも軽井沢でもあのメーカーさんが建てた家々は幾つもあるでしょうな。土地柄的にもね。
その家を見に行くオンナ2人の後ろ姿ですよ。
ピンポォ~ン、「すみませんMでぇす。ちょっとお願いがぁ」、家人の了承を得てジャン妻と2人で敷地内に入ってったんですよ。
私は入らなかったですよ。歩道で見学が終わるまでずーっと待ってたんだモン。私は他人の家に興味ないし(自分が住む家じゃないからですよ。)
人ん家を見に行くなんて、よくそんな図々しいことができるなって思ったもの。
そしたら2人ともなかなか出て来ないんだ。広い庭であーだこーだ話してる。伊豆は建蔽率や容積率の規制が厳しいから部屋数坪数からして2階にせざるを得なかったとか聞こえたな。
「楽しみですね」(Mさん)
「明日も打ち合わせなんだけど、全部、私ひとりでやってるんですよ。間取りもデザインも交渉事も。この人出ないし、契約書にサインするだけでもブツクサ言ってたし」
「まぁ。ご主人も参加しないと・・・」
「やなこった。朝起きたらカボチャが馬車になってりゃいいんだ」
昨夜、猪親子が出たのもこの辺りらしい。庭にほじくり返した跡があったそうである。