2023/10/03
サザエとカツオ
テーブルの上に刺身の小皿が2つある。
ひとつには醤油が入っている。もうひとつには何も入っていない。
「何でもうひとつには何もないの?」
「こっちに醤油を入れるのを忘れてんだよMさんは」
オーナーシェフMさんの醤油の入れ忘れなのです。
まず定番、最初の刺身盛りが出てきた。小鯵が2尾、同じ方向を向いている。
目がキョロンとして新鮮そうだ。
次に別注の刺身がドーンと。
トテモ重たいゴツい皿です。
「別注のお刺身を持って参りました。カツオとぉ、サザエぇ」
そんなん見りゃわかる。
そして前菜盛り合わせを持ってきたが、まだMさんは気が付かないのよ。
「Mさぁん、生姜を混ぜる醤油は?」
「あっ!」
やっと気が付いてくれた。
慌ててもうひとつ醤油を持ってきた。
私から別にお願いしといたのだ。定番の刺身のワサビ醤油とは別に、カツオは生姜醤油でお願いねって。
「すぅみませぇん」(Mさん)
「カツオは生姜醤油でしょうよ」(ジャン妻)
「S&Bのチューブじゃなくて生の生姜」(ジャン)
カツオとサザエの大皿には擦った生姜と薬味の刻んだネギが入っていた。
生生姜だ。チューブじゃないね。生姜も薬味ネギも充分あるけど、醤油を忘れちゃぁダメ。
カツオはブ厚いのと薄いのと、端っこと不揃いでもある。ブ厚い切り方は今はもうない「紀尾井」に通じる。
「刻んだ長ネギか。長ネギってこの宿で初めてみた」
「そうですねぇ。あまりウチでは出さないですねぇ」(Mさん)
和の旅館じゃないし、洋風の宿ではあまり出ない食材なのかもしれない。長ネギよりエシャロット(フランスの冬ネギ)だったりしてな。
でもここでもうひとこと突っ込むなら「静岡なんだから細い青ネギでしょう」と言いたくもある。でも言うのやめた。
何故、カツオが出たかというと。
当初はイカをお願いしてみたんだけどイカの水揚げがない旨、連絡があったの。
でもMさんも天然とはいえ商売オンナだから、イカの替りに別なのを提示して儲けなきゃモードになって、アジだのカンパチだの、カツオにサザエ、カマスやらクロムツやら、いろいろ候補に挙げたんだけど。
カマスは皮を炙らないと刺身で出せないし、アジとカンパチは定番で出るし、いいクロムツじゃなかったそうで、消去法で残るは、
「カツオがいい」(ジャン妻)
になったわけよ。
カツオだけじゃ伊豆のイカ(赤イカ?)の提供価格に満たないから?サザエも追加しちゃえってなったんだろうね。
「さらの刺身は美味しい!」
Mさんは喜ばない。「よかったです」だけ。
だが、さらの木でカツオを食べるとはね。
「初めてだっけ?」(ジャン妻)
「ガーリックで焼いたのは出たことあるかも」
「まるで海辺の民宿みたいだねぇ」
そう言ったらMさんは何だか複雑な表情で「それって喜んでいいのかしら」って言ってた。
刺身はネタさえよければカットして盛るだけなんだから「アタシが手を加えた前菜他、手料理を誉めてくださいよ」ってのが本音だろうな。
追加の刺身はMさんにとって金儲け・・・いや、失礼、売上Upの戦略でしかないのである。
でも海の向こうの大陸が輸入を拒否って漁業会は困ってるんでしょ。
観光業界だって「日本の魚は食べないので予約をキャンセルさせて下さい」とかもあるんだって?
だからここで刺身追加してもいいんじゃない?
次回はホタテをお願いしてみようかな。でもホタテって伊豆で水揚げされるんかな。
個人的に思うには、大陸に大量に売ってた業者さんたちが今更、自国での自給自足を訴えるってのは、今までそうやって爆売りしてきたツケが来たってことですよ。
大陸で高値で売れるから輸出してきたんだから、拒否された以上は国内や他で流通する開拓に尽力してほしいものだ。
禁輸撤廃は期待しないで、禁輸継続をいい機会と捉えましょう。大陸依存からの脱却なら税金を投入してもいいでしょう。
いつもはインパクト大で、この宿をSNSで広めたといっていい前菜盛り合わせも今回は脇役になってしまった感がある。
まっ黒い消し炭みたいなスペアリブと、オクラの味付けが美味しかったくらい。
「椎茸食べなさい」
「あげる」
「食べなさい小さいんだから」
サーモンのたたきタルタル、生シラスガーリック和えはいつもの定番だから美味しくってアタリマエだからね。今更、誉めないよ。
「まさかこの後、焼き物でも(サザエが)出たりしてな」
「???」
だがMさんらしいというか、ホントに焼き物でもサザエが出てきたんですよ。アジもパン粉焼きで丸まってでてきた。サザエは計4個でてきたんです。
アジの骨を取って身を丸めて、塩味でパン粉を塗して焼いた香焼き、美味しいけどちと塩気が強い。これはいつもだったら生ビールなんだけどそれも抑えた。冷水を飲んだ。
いつもより多く冷水を飲むことで、私の体調がイマイチなのがMさんに伝わったかもしれない。やや夏バテで疲れてるのだ。
「出ると思ったよ」
「・・・」(Mさん)
サザエを刺身と焼きと、計4つですよ。私はやや鼻白んだが、ジャン妻は大好物のサザエ肝が4つも味わえてご満悦である。刺身も焼きも肝は全部食べられてしまった。
私はまだあるサザエの刺身と焼いた切れ端を、日本酒と併せたい気持ちが動いたのだが、ちょっと自制した。
暑い日が続いたせいか、少々、夏バテで、酒がすすまないのである。この後、床のタイルを剥がした台に和の肴が載せられて出されるまで日本酒は待った。
そして和風の肴になります。
アジの押し寿司、トウモロコシと肉シウマイ、冬瓜の煮物、モロヘイヤのおひたし、
Mさんは肉が好きなので、お料理の紹介をするときも「にく、しう、まい・・・」感慨深く口に出す。私が肉をたたいて丸めたんですよってことです。
ところが私は、
「あれ?崎陽軒、今日は買ってこなかったけど」
「き、きようけん、ですか・・・」
ちと説明が要るな。コロナでくるまの県外移動が憚られた頃は自分たちは電車で来てたんだけど、電車だから駅の売店で崎陽軒のシウマイを土産に進呈したことが数回あった。
すると決まって夜にシウマイが出るんですよ。桜シウマイとか。そんなのが出たら私の悪態が引き出されるに決まっている。「これ、さっき渡した崎陽軒だろ」ってね。
「違いますぅ」
「原価がタダ(無料)だしな」 ←これ、今は亡き紀尾井さんの台詞のパクリ、
ついでにバラしちゃうけど、最近は崎陽軒のシウマイを土産に買ってくるの止めたの。「旦那さんの分もね」って言って渡してるのにMさんはひとりで食べちゃうんだよ。
「旦那さんにもあげてね」
「私ひとりで食べます」
「あげないんだったら返せよっ。直接渡すからっ」
「ヤダ」
愛おし気に抱きかかえるなっての。翌日に聞いたら、
「旦那に2個あげました」
たったのふたつかよ。
それでいて旦那さん、翌日に庭で私を見つけて平身低頭ですよ。自分がそういう仕打ちを受けたらどう傷つくかと背筋まで寒くなった。
「ネタ造りの為に崎陽軒を買って来るの止めなさいっ」ってジャン妻からストップがかかった。
じゃぁ崎陽軒ネタは止めよう。その代わり今日は鯵の押し寿司もあるね。、
「今回は大船軒の押し寿司もあるじゃないか!」
「おおふな、けん?軒ってあるんですか?」、
そう聞かれて説明するハメになったのだが、大船軒はご存じなかった。
「大船駅で売ってるんですか?」
だから大船軒だっての。ググって見せてあげた。
「美味しそう・・・」
「いやいや、Mさんの押し寿司の方が生っぽくて美味しいですよ」と言っておいた。
モロヘイヤのおひたし、こないだ船山でも出たぞ。モロヘイヤブームなんだろうか。
「身体にいいですよね」(Mさん)
この台詞も船山の若女将と同じだった。同じイニシャル、Mだし。
お二人が声を揃えてそう仰るんだから身体にいいんだろうな。
でも私が思うに、身体にいいものなんてそんなに美味しくないですよ。
ロービーが登場しています。
ジャン妻の希望です。私もステーキやバーグよりこういうのがよくなってきた。
今日はデカいローストビーフだ。もとの肉が大きかったらしい。いい肉が塊で入ったのでしょう。
「ハァ~(溜息)」
「溜息が多いわね」
「まぁね」
「わかるけど」
今宵はあまり前向きな会話じゃなかった。何に乾杯していいかもわからなかった。2人とも、後任候補者の退職問題を抱えているのです。
もう2人して正社員じゃないし、後任=後輩が辞意を表明しても、昨年12月でジャン妻が、今年4月で私が契約を更新しなければこっちが先に退職して今、会社にいないわけだからね。責任を持って引き留められないし。
この問題はまだ引きずっていて、私らはまだ退職が伸びそうなのだ。投げ出さない限りね。昨夜も大船でそのネタになって、今後、どーする?いつまでいる?ネタばっかりなんですよ最近は。
さっさと引退して建築中の新居で逼塞したいものだ、と、このときは思った。
しかしデカいロービーだな。カットしないと口に入らない。そのまま持ち上げて食べようとしたら顔全体にペタッと貼り付きそうである。
少々夏バテ気味で酒がススまず、ハートランドビール1本、フルボトルで白ワイン1本、日本酒「正雪」を2合、ジャン妻だけヘンな果実酒を1杯、これまででいちばん少ないアルコール摂取量で終わってしまったという。
で、部屋で二次会なんだけど、
「この子なんて名前でしたっけ?ポポちゃんでしたっけ?」(Mさん)
「プチですよ。プチペンギンっていう商品名だったの」
「あらプチちゃん。お洗濯して貰ったの?」(Mさん)
プチはムッとした。
Mさんはジャン妻がオーダーしたヘンな果実酒を忘れているんです。
「忘れてますよね?」
「!!!」
「ボケぇ、何やってんだよぉ、しっかりしろい」
反撃に転じたプチ公は悪態をついた。
お湯がちょろちょろ。
もったいなくもある。さして湯に入りもしないのに。
宿入りした最初はぬるかったのだが、灯油のニオいが漂ってきたと思ったら熱くなった。沸かし湯はタイヘンだ。船山もそうだが、この宿の燃料費の高騰で経費が圧迫されて厳しいだろう。これから寒くなるし。
明日の朝、緑色の珍客が現れるのだよ。目の前が森だからね。
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コメント
No title
栄螺・・・
ちょっと苦手です。
そんなにたくさん出たら、
困っちゃいます~ (^^;)
プチくん。
こんなお宿なのですから、
「プチくんもお風呂に入ったの?」
なんて言われたら、
プチくんも怒らなかったかも (^-^)
2023/10/03 13:18 by くまねこ URL 編集
No title
サザエとかアワビとかコリコリした食感の貝刺が好きです。
トリ貝みたいなフニャフニャしたのは苦手です。
サザエは1個で充分ですね。カツオは如何ですか?
プチは子供じゃないのです。もうとっくに成人した大人です。前職の頃からだから30年くらいいるんじゃないかなぁ。
前にこんな会話がありましたよ。
「アラ、プチちゃん、大分年季が入ってきたわね」
「何をっ、そっちこそっ」
「まっ!どうしましょう」
顔に手を当てて、
「立ち直れないわ~」
2023/10/03 18:37 by ジャン URL 編集